UP後しばらくして粗が気になり、削除したSSの改稿です。
当時のファイルを発掘して、書き直してみたくなったので…。
ロクス×女天使でほのぼの。
〔聖都侵攻〕よりも前を想定しています。
「『シェリ』ってどういう意味なんだ?」
涼しい風が吹き抜ける木陰での休憩中、唐突に振られた話題に、隣に座っていた天使はきょとんとした顔で首を傾げる。
何を言われているのか全く理解していない様子に、ロクスは小さく肩を竦めた。
「君が歌う天界の歌に、よく出てくるだろう?」
補足されて、ようやく合点が行ったのだろう。
今度は反対側に首を傾げ、“地上の守護天使”のイメージからは程遠い幼い仕種のまましばらく考え込んだ。
「…えっと、地上(こちら)の言葉だと、『いとしい』とか『かわいい』に近いですね」
「………。
ふぅん…。じゃあ、僕にとっての君、ってことか」
「……え…?」
天使は小声で問い返し、頬をほのかに赤く染める。
予想外の展開に、内心ロクスは大きく慌てた。
こんな見え透いた口説き文句にこうも素直に反応されてしまうとは、思ってもみなかった。
焦りを覚られぬよう、無表情を装い視線を逸らす。
今ふたりの間にある微妙な雰囲気(くうき)を早く壊してしまいたくて、わざと大袈裟に吹き出した。
「???
……あ、ロクス、からかったんですか!?」
「…そうやって何でも馬鹿正直に受け取るのは考えものだぞ? 君の倒すべき敵である堕天使は、騙すのが得意なんだからな」
「………」
苦し紛れの言い訳だったが、思い当たる節があるのか俯いて落ち込んでしまった表情(かお)に、微かな罪悪感が過る。
しかし、ロクスは敢えてそれを無視し、おもむろに立ち上がった。
「そろそろ行くぞ。僕は今日も野宿は御免だ」
淡々と言い、歩き出す。
夕刻が近づき、北からの風は少しずつ、強く冷たくなってくる。
天使がまだ座り込んでいるのに気付いたが振り返らず、―― ぽつりと呟いた。
「僕は、嘘だ、とは言ってないからな」
「…ロクス? いま何て言ったんですか? 風で聞こえなくて…」
思わず漏らしてしまった本心が伝わらなかったのは、幸か不幸か…。
なんとなく複雑な心境になりながらも、立ち止まることなく再び口を開いた。
「……ぼーっとしてると置いてくぞ、と言ったんだ」
「ま、待ってください~」
あたふたする声が背中に届く。
だがロクスは、風音で聞こえない振りをして歩き続けた。
何気なく口にしたはずの、言の葉が心に触れて。
不意に吹き過ぎる風に、木々や水面(みなも)がさざめくように。
そっと…、胸の奥へと響いていく。
ちょっとした悪戯心に、含まれていた本当の想い。
それを彼女は無意識に、感じ取っていたのだろうか…?
僕のなかに、どんな風に君がいるのか。
君のなかに、どんな風に僕がいるのか。
互いに識っているようで、でも錯覚かもしれなくて。
そんな不確かな繋がりが、今は不思議に、居心地がいいから。
この感情(きもち)はもう少し、君に隠したままでいよう ――― 。
徐々に夜へと移る空の色を見上げる。
その後で、彼の天使が追いつくのを待つ為にロクスは一度、足を止めた。
fin.
2020,11,07
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メッセージ
ありがとうございます♪
以前交流のあったサイトの管理人さんから教えていただいた、
海外旅行中のエピソードが元になっています。
「シェリ」はフランス語の「Cheri(男性)」「Cherie(女性)」です。
当初はイタリア語を使っていたんですが、今回調べ直したら、
男性への呼びかけだったのでorz ←当時はよく分かってなかった…
「Cheri」と「Cherie」は発音が同じなので、そちらに変更しました。
最初にUPしたものよりは良くなっている、……はず??