UP後しばらくして粗が気になり、削除したSSの改稿、その2です。
今書き直したらどんな感じになるかな?と思い、発掘したSSを改稿しました。
両想いでの闇堕ちです。
守護の任務完了後、地上に残れないとしたら…?という私的設定で、
やや大人向け表現ありのメリバです。
うちの闇堕ちネタの中で、おそらく一番読後感が良くないと思うので、
あらかじめご了承ください。
ここは、二度と陽光(ひかり)の射し込まない部屋。
偽りの幸せが全てを制する、
閉じられた、……ふたりの為だけに在る空間(せかい)。
仄かな灯りが一つ点された、薄闇の揺蕩う室内で、音もなく淡い影が揺れる。
「ラビエル」
翼を消した天使を後ろから抱きしめたクライヴは、そのまま白い首に牙を立てた。
「ん……」
肌を刺す痛みは一瞬。
吸血と伴にクライヴは片手で彼女を支え、空いた手で華奢な躰に触れる。
地上を忙しく飛び回っていた頃には想像もできなかった快楽が、次第に心身を犯していく。
「クライヴ…」
熱に浮かされた声で呟く。
応えて彼は腕の力を強めた。
僅かに残っていた理性も消え…。秘めた夜へと、ラビエルは逆らわず溺れていった。
―― 歯車は、何時(いつ)から狂い出していたのだろう…?
「地上には残れません…」
胸にある想いとは真逆の言葉を、悲痛な面持ちで告げる。
だがクライヴは、驚くほど静かに微笑んだ。
彼は既に、知っていた。天使の唯一無二の愛情が、誰に向けられているのかを。
それでも彼女は、任務を完遂すれば、天界に帰還する他ない。
承知の上で口にした願いに予想通りの答えが返り、本当は終わるはずだった。―― そこで瞳を、見合わせなければ。
絡み合い、逸らせなくなった視線は、雄弁にそれぞれの心を暴いて。
最初で最後のつもりで交わした口付けが、守られるべき境界を、いともあっさり壊してしまう。
箍が外れた思慕は暴走し、一度では止められずに。
紫紺の双眸に、不意に宿った狂気の色。気付いていて、敢えてラビエルは目を閉じた。
冷たい唇が、天使の細い首筋をゆっくりと辿っていく。
「…っ……」
微かな痛みと、全身に伝わる甘美な痺れ。
「…クラ……イヴ…」
半ば朦朧としながら呼んだ名前にも、彼の行為を咎める響きはなく。
ただ、凍りつくような静寂がふたりを包む。
しばらく無心に天使の血を啜っていたクライヴが顔を上げる頃には、ラビエルの足元は覚束なくなっていた。
胸の中へと倒れ込む。
狂おしい眼差しに搦め捕られ、目の前の愛しい人以外は、やがて脆く削げ落ちていき……。
再び深く口付けられる。自分の血の味がするキスに、ラビエルはもう何処にも戻れないことを覚った。
素肌を合わせる、酷く甘く、何より背徳的な時の後。
微睡みから醒めたラビエルは、気怠げに目を開けた。
アルカヤは現在(いま)、どうなっているのか…。ふと過った守護天使としての責務も、虚ろな意識に紛れていく。
クライヴは覚醒した竜の血による魔力で、この部屋ごとふたりを隠している。
外界を完全に遮断した空間(へや)で過ごすうち、いつしか、日付の感覚も薄れていた。
永遠に、胸の奥にしまっておくと決めていた恋。計らずも想いを遂げてしまったあの夜は、つい昨日のような気もするし、随分と昔のような気もする。
翼を現すのをやめ、人間(ひと)の姿を模したところで、徐々に力が失われていく定めが変わるわけもなく。
いずれは、ここに存在さえできなくなる。けれど堕ちた魂は、天にも還れず消滅するのみ。
私はあなたを救えない。
あんなに渇望していた光もあげられない。
でも、それでいいとあなたが言うなら…。
唇も躰も、求められるままに重ねていく。
そしてクライヴに自らの血を捧げることを、ラビエルは決して拒まない。また彼も、欲するのは彼女の血だけだった。
不思議に満ち足りた時間(とき)が、緩慢に過ぎていく。
天竜と悪魔によるアルカヤの崩壊と、自身の、逃れられないタイムリミット。
どちらが先に訪れても、待っているのは破滅でしかない。
互いに分かっていて、
天より、地上より、選んだのはふたりきりの、仮初めで束の間で至福のひととき。
後悔なんてない。哀しみすらも。
だって最も望んでいた存在(もの)が、今は確かにこの手の中にある。
闇に囚われた勇者と天使。
罪も罰も、総て私が背負うから……。
「………最期までずっと、……傍にいて ―――」
出会ったばかりの頃と同じ、あどけなさの残る寝顔。ラビエルはそこに優しいキスを落とし、そっと囁いた。
そうしてすぐ隣に、有らゆるものを犠牲にして得た温もりを感じながら、かつて天の遣いだった少女は、再び浅い眠りに堕ちていった。
fin.
2021,04,04
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メッセージ
ありがとうございます♪
勇者に同行したり、パートナー以外の妖精の雇用するとAPを消費する、
APがなくなると天界に強制帰還になる、
というゲーム内の仕様をそのまま使っています。
クライヴに同行したまま、妖精の雇用も解除できなければ、
天使はAP=力が減り続け、地上にいられなくなります。
でも、地上守護の任務を放棄した天使が、
以前と同じように天界に戻れるとは思えないので…。
書いた本人が言うのもなんですが、この天使はちょっと狡いかなあと思います。
地上滅亡とAP0、どちらが先に来ても、天使は最期までクライヴといられます。
でもAP0が先だったら、クライヴは一人で取り残されます。
このSSのクライヴは最初からそれも分かっているので、すぐ後を追いそうですが…。
当初、クライヴ×アリアのパラレル設定で書こうとしたのですが、
違和感しかなくて断念し、デフォルトの「ラビエル」を持ってきました。
書いて上げてはみたものの、しばらくしたらあまりの酷さに耐えきれなくなり、
載せていた企画ページごとさらっと削除しました(;´Д`)
当時はメリバにあまり耐性がなかったのに何故書こうと思ったのか、
今思い返しても謎ですが…。
その頃よりは書くSSの幅がある程度広くなった分、
多少は出来が良くなっている、…といいなあと思います。