ふたりが城を出た後の、城に残った男性陣の会話です。
エリック視点で、多少地の文もあります。
ノリは軽めのつもりで書き始めたら結構シリアス寄り、
しかも「小」じゃない長さになってます…。
ふたりの足音が聞こえなくなった後で、エリックはそっと溜息をついた。
「複雑ですね、あなたも」
不意にぽん、と肩を叩かれて振り返る。
「ブラッドリー様! キース様、フィル様も…。
皆様お揃いで、どうされたのですか?」
「バルコニーから、恋人達の声が聞こえてきたからね。
彼が迎えに来たんだろうなって…」
苦笑気味にキースが肩を竦める。ブラッドリーも同じく軽く苦笑いを浮かべていたが、フィルだけは無表情のままだった。
「それで、時間を稼ぐのは一週間、…いや、十日くらい見た方がいいか?」
「そうですね。おそらく船で国外に出るでしょうから…」
「確かに、それくらいが妥当かもしれないね」
「あの、皆様、どうして…」
話が予想外の方向に進んでいることに、動揺を隠せずにエリックは三人を見た。
「……誰も愛せないと思っていたあの女が変わっていくのを見ていたら、俺の考えも少し…変わったからな…」
「何というか、いつのまにか応援したくなってしまったんですよ」
「彼女の運命の相手が僕じゃなかったのは残念だけどね。
――エリック、君は十日後、朝になったら彼女が城から姿を消していたと、今回の招待状を出した方に報告するんだ。
そして、城の使用人達は君も含めて全員、それまでは何も気付かなかったことにしてくれ」
「キース様!?」
「迎えの馬車が来た時、彼を慕っている様子だったのは、誰もが分かったでしょう。
彼女が一人で城を出られたはずがない。同時に彼も消息を絶ったとなれば、間違いなく疑いの目は彼に向けられます」
「次は、誰か手引きをした人間がいたのかが問題になるな」
「それは…」
「今更深く追求するつもりはないけれど、彼女の旦那様選びには王家が関わっているんだろう…?
僕は子供の頃から何度も、女王に謁見している。
一途に愛し合うふたりに同情して、僕が計画を立てて駆け落ちさせたことにすれば、お咎めを受ける者はいないはずだ」
「……皆様…」
「ああ、それともう一つ。彼女がいなくなったからといって、僕達の待遇は変えないでくれるかい?
もうしばらく客人としてもてなしてもらえるなら、後の面倒は僕達が引き受けるよ」
「面倒を引き受けるのはおまえ一人だろう。俺はこれ以上口を挟まないだけだ」
「それはキースにお任せします。適任のようですしね」
仏頂面のフィルとくすくすと笑うブラッドリーに、キースは再び大袈裟に肩を竦めた。
「まぁ僕は、かつて王家に仕えた騎士の一族だからね。
この小さなお城に住んでいた僕達のお姫様が幸せになれるよう、背後を守ってみせるさ」
「――ありがとうございます…」
エリックは心からの感謝を込めて、三人に深く頭を下げた。
fin.
2010,07,19
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