delightful day

 口移しで少しずつ水を飲ませてもらう。
 空になったコップを棚に置くと狼さんもベッドに入り、髪を撫でて添い寝してくれた。
「調子に乗って、浴槽であんなに激しくしたのはまずかったな。
 せっかくの誕生日に、生クリームまみれにしたり具合を悪くさせたりして、すまない…」
「ううん、もう大丈夫よ」
 キッチンでの宣言通り、ねっとりとした攻めはバスルームでも続き…。
 オヤジくさいとまた茶々を入れつつも、いつのまにか夢中で乱れ、達した時には既にのぼせてしまっていた。
 朝からたっぷりと愛された気怠さと湯あたりの浮遊感が残る頭を、逞しい腕に預ける。
 森の香りを胸一杯に吸い込み、浮かんだ疑問にティアナは視線を上げた。
「ねえ私、狼さんに誕生日の話なんてした…?」
「おまえが森に遊びに来ていた頃にな。新しい服を真っ先に俺に見せて、はしゃいでいたのを覚えてた」
「そういえば昔はママが毎年、可愛いワンピースを作ってくれていたんだわ」
 だがクラウディアの死後、そんな風に祝福された記憶はない。そのせいか、早く大人になりたいと願っても、それを誕生日とは結び付けなくなっていた。
 声音と表情で大方の事情は伝わったのかもしれない。
 まだほのかに火照る頬を、大きな手がやさしくさすった。
「後でレストランに行こう。ウサギに美味いケーキを作ってもらって、一緒に食べような」
「ありがとう、狼さん。大好き…」
「オヤジでもか?」
 すかさず冗談めいた口調と、何処か切実さを感じる眼差しで問い返される。
 開き直ったのかと思いきや、どうやら完全に吹っ切れてはいないらしい。
 ティアナは深い飴色の瞳をまっすぐに見つめ、微笑んだ。
「ええ、狼さんの全部が大好き。
 ……今日みたいなのが毎回じゃ、ちょっと困るけど…」
「はははっ、そうだな。
 おまえに嫌われたら元も子もないし、オヤジなりに次は気を付ける」
 軽く笑い合い、一息ついた狼さんはふっと真剣な目になって。
 唇が慈しむようにそっと重なった。
「これからは毎年俺が祝ってやるよ。
 誕生日おめでとう、ティアナ。愛してる」
「狼さん…」
 自分自身でさえすっかり忘れていたのに。
 生まれた日をこうして祝ってくれる人と家族になれたことが、本当に嬉しい。
 甘えて寄り添い、やわらかく抱きしめられた腕の中でもう一度、ありがとうと呟いた。

fin.

2012,05,03

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