星がひとつ、ふたつと輝き始めた頃。
夕焼けの名残りも徐々に薄れ、白い雲が疎らに流れては消える空から、
何より愛おしい“光”が再び、舞い降りてくる。
その華奢な身体を受け止めて。
傍にいさせてくださいと微笑む翼のない天使を、しっかりと胸に抱き寄せた。
「…愛して…いる」
「―――」
ずっと伝えたかった一言を、ようやく口にする。
君は、声もなくこちらを見て。
涙が溢れそうな瞬きと同時に、細い腕が首に回された。
「アリア…?」
「…私、本当に、クライヴの処に、……帰ってこられたんですね…」
「ああ…。…おかえり」
潤んだままの双眸を見つめる。
けれどそれ以上は、互いに何も、言えなくて…。
ただ幾度も、そっとそっと…、唇を重ね合わせた。
目覚めて、部屋が明るいことにまだ慣れずに、しばらくぼんやりと天井を眺めていた。
隣に寄り添い眠る、大切な存在(ひと)の温もりが、次第に実感を伴って感じられる。
温かな頬と髪に触れると、思わず微かな笑みが浮かんだ。
純白の両翼と伴に天より降り立つ君の姿が、
ふと見上げた月のない夜空の色を変える。
もしかしたら、その瞬間(とき)には既に、
恋に落ちていたのかもしれない。
闇に惑う心に射し込む、一条の光。
そして君を識るたびに、いつしか、想いは深く強くなって。
だが、それが愛だと気が付くまでの間、心無い言葉や態度で、たくさん君を傷つけた。
そんな身勝手ささえも君は、“過ぎたこと”と笑顔で赦してくれるけれど。
これから君を護り続けることで、少しでも、償いができるだろうか…?
桜色の唇から、不意に小さな声が零れる。
やや気怠そうにしつつも、まだ天界にいた頃の感覚が抜けていないのだろう、
無理に身体を起こそうとするのを、できる限りやさしく制して。
やがてまた隣から聞こえてきた君の寝息に、
もう一度、緩く波打つ髪を指に軽く絡ませながら、
焦がれるように、狂おしいほどに求めた心と温もりを、
確かに腕の中に得て、芽生えた新たな願いに気付いた。
いま欲しいのは、“ふたり”であることの“永遠”。
けれどその希みはたぶん、“儚さ”とも、良く似ていて。
饒舌でも、大袈裟でなくてもいい。
見つめて、声にして、触れて……。―― それが些細なものであっても。
愛しさ(おもい)を伝えることを何処かに置き忘れた瞬間に、
おそらく、簡単に壊れていくのだろう。
だからこそ、
幸せな夜が明けて、初めて君と迎える新しい日(あさ)に。
窓を通して部屋を照らす暖かい陽射しの中、空色の瞳が開いたら。
まず最初に、君に、「おはよう」と微笑おう。
今日から、真っ白な未来(あした)を一歩ずつ、君と一緒に探していこう。
―― でもそれまでは、
もう何も、難しいことは考えずに。
君に出逢う前には想像もし得なかった、この穏やかなひとときに身を委ねよう。
深呼吸の後で静かに目を閉じて。
今までで一番やわらかで幸福な…睡りに包まれていよう。
君という、至上の光を抱きしめて。
fin.
2003,09,28
初出(暫定版) 2003,08,18
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