君を初めて見た時、
……幼い頃、俺を育てたばあさんが、
よく聞かせてくれた話を思い出した。
昔、地上が闇に包まれた時、天から光を運んだ天使…。
信心深かった彼女は、繰り返し、その伝説を俺に話した。
ずっと忘れていた思い出だった。
―― ただ、それだけだ…。
少し途切れがちに、淡々と紡がれる声音(こえ)。
それでも瞳の奥には、懐かしさと愛しさと、……未だ癒えない哀しみがあって。
あの夜の短い言葉に、こんなにも深い理由(おもい)があったことを初めて知った。
そして、頑なにあなたが独りで在り続けるのは、
度重なる喪失感が今も、
大切な人達の血に、染められているからなのだと…。
君に、俺の何が分かる?
俺は、……君が思うほど、強くはない…。
……怖いんだ。
あの狂気に取り込まれ、闇に堕ちることが…。
助けたい。
その気持ちには、嘘も打算もないけれど。
魔に連なる者達に、“自分自身の何か”を奪われたことのない私は確かに、
あなたの負う過去と宿命の重さを、
本当の意味では、理解できないのかもしれない。
苦しみも痛みも全て、
この心で代われたらいいのにと…、
願うけれど、それが、
叶わないことも、分かっているから。
きっとこれからも、
あなたを嘖む暗闇に、
ほんの少しずつでも光が、届くように手を伸ばす。
返る言葉(こたえ)がなくても、
生きることを諦めないでと、大切な名前を呼び続けていく。
それがどんなに、辛い選択(みち)になってもいい。
あなたが微笑って過ごせる未来(とき)がいつか、来るのなら、
それだけで私は、
何を背負っても、構わないから……。
fin.
2008,04,27
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