今日はまず、フロリンダからの報告を聞いて、
それから、アルカヤ全体の様子を確認して…。
まだ目覚めきらない意識で、そんなことを考えていた。
でも、身体が動かない。不快な感じはしないけれど、瞼も重くて…。
なんだか、温かい腕の中にそっと護られているみたいで、
やわらかな温もりに、このまま包まれていたくなってしまう。
それでも、起きなくちゃ、そう思ってようやく微かに身じろぎした時、
「―― まだ眠っていればいい…」
低く甘い声が、耳元で聞こえて。
それだけで、すぅっと心が解き放たれていく。
そうしてまたふんわりとした睡りに落ちていく、その途中でやっと、昨夜からの記憶が徐々に甦ってくる。
翼を天に、置いてきたこと。
先刻のやさしい囁きが、いま抱きしめてくれている腕が、誰のものかということも……。
恥ずかしさより、何よりただ、嬉しいという気持ちが拡がっていく。
夢うつつのまま無意識に、
「……クライヴ…」
呟いたら、すぐ傍で、微笑む気配がして。
それを感じた瞬間ふと、
何故かも分からないまま、けれど強く、紫石英の瞳の奥に隠された希みを叶えたいと願った、あの夜のことを想い出した。
あなたと出逢って初めて識った、特別な存在(ひとり)への愛情(おもい)。
そしてあなたが、私の名前を呼ぶたびに、微笑んでくれたり、やさしく触れてくれるたびに、
生まれる切なさにも似た微熱が、いつかこの胸に、消えることのない光を灯して。
絶望の只中で立ち竦む時も、ともすれば挫けそうな心を、その光が支えてくれた。
だから、
目覚めたらきっと、もう一度ちゃんと、たくさんの“ありがとう”を伝えることができますように。
どうかずっと、あなたの未来の隣に、私の未来がありますように…。
今度はそう願いながら。
辿り着いた夢の中でも、降り注ぐ陽光に少し眩しそうに、あなたが静かに微笑っていた。
fin.
2003,10,28
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