ヴァンパイアハンターであるアーウィンの弟子となり、師が住んでいる町へと戻るのに付いていく。
夜が明けても、曇っているうちはまだ良かった。徐々に雲が切れ、落ちる影が濃くなるにつれ、年のわりに小さな身体を灼けつくような苦痛が苛む。
歩幅と体力の違いからただでさえ遅れがちだったのに、師の後ろ姿はどんどん遠くなっていった。
苦しい。陽の光がこんなに辛いなんて、やっぱり自分には、“闇の血”が流れているんだ…。
でもそれを知られたら、おそらく弟子でいられなくなってしまう。
他にヴァンパイアハンターになる伝手はない。
おじいさんとおばあさんの仇を討つ為に、耐えて、隠し通さなければ…。
歯を食いしばり、追いつこうと踏み出した足に力が入らず座り込む。
こんな処で倒れたら捨てられる…。
朦朧としながらも立ち上がろうとしたが叶わず、そこでクライヴの意識は途切れた。
目を開けると、見えたのは知らない天井だった。
辺りを見回し、宿とおぼしき部屋のベッドに横になっている状況を、重さの残る頭で理解する。
あのまま置き去りにされるかと思ったが、意外にもアーウィンはここまで運び、休ませてくれたらしい。
昨夜出会ったばかりの師匠は無表情で食事をしていたが、クライヴが起きたことに気付くと手を止めた。
「―― お前、幾つだ?」
「十三…」
突然の問いに面食らいつつも、とりあえず正直に答え、ベッドを出る。
アーウィンはしばらく眉間に皺を寄せた後、短く息を吐き出した。
「……そうか。やはりあの娘の子供か」
「?」
「お前の母親である娘を、村に連れ帰ったのは俺だ。
救出の依頼を受けた娘と一緒にいたから、ついでにだがな」
「!!」
養父母が話していた母の恩人が、まさかアーウィンだったとは…。
かつて救い出した、吸血鬼の王への生贄だった娘。十数年後、娘を送り届けた村で拾った、日光を苦手とする子供。
二つが結び付けば、子供が誰の血を引いているかの推測は容易い。
大方、実年齢より幼く見えるせいで、確信が持てなかったのだろう。
いきなり年を聞かれた理由を覚ったものの、今さら誤魔化しても手遅れだ。
今度こそ弟子入りをなかったことにされ、置いていかれるか、もしくは教会に連れていかれるか…。
クライヴはどうにか食い下がれないか、必死に考えを巡らせる。一方、半人半吸血鬼である弟子と相対したアーウィンは、顔色一つ変えずにテーブルの上を顎で指した。
「陽が落ちたら出る。食えるなら、今のうちに食っておけ」
「ぼ、…俺も付いていっていいのか?」
見放すでも預けるでもなく、また出し抜けに告げられた出発に耳を疑い、咄嗟に聞き返してしまう。
だがアーウィンは、ぶっきらぼうな声で続けた。
「お前の事情は俺には関係ないと、最初に言ったはずだ。
だからお前が吸血鬼になったら、弟子だろうと斬る。
逆に、俺がそうなった時も迷うことなく斬れ。一度、吸血鬼になった者はもう死んだも同じだ。死体に遠慮などするな」
「………」
昨日取った弟子への指導にしては、重過ぎる訓示だった。
ただ、忌まわしい出自を知ってなお、師の中で自分はまだ、“人間”なのだと…。
そして、もしいつか、自分が“人間でなくなってしまった”時、師が確実に殺してくれるのなら……。
「分かった」
一言返してテーブルに着き、黙々と食べ始める。
美味しくないが、味は最早どうだっていい。これから体力をつけ、剣技を学び、奴らを滅ぼすハンターにならなければならない。
この男の元で修行を積めば、きっとその日に近づける…。
生まれ持った呪縛がほんの少しだけ緩んだような、不可思議な感覚と伴に、クライヴは固いパンを飲み込んだ。
fin.
2024,06,02
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