夜気

 天へと戻る翼が、真夜中の空をふんわりと照らす月の光に包まれる。
 ふと心に浮かぶのは、夜の闇に静かに佇む、漆黒の髪と長身の後ろ姿。

 ただひとりへの特別な思慕は、
 時に、予想だにしない感情(もの)へとかたちを変えて、
 無意識と意識の狭間で、様々な波を起こしていく。

 自分でも気付かぬうちに、こんなにも深くなっていた想い。
 同じ願いを抱(いだ)いていると、知った後もそれは、深度を増していくばかりで…。

 何にも縛られず、誰より自由でいてほしい。
 でもその一方で、時折不意に胸を掠める、独り占めしたいような気持ち。

 抱きしめられることにさえまだ、慣れることはできなくて。
 けれど早まる鼓動と一緒に、温かな腕の中で、不思議な安らぎを感じている。

 本当は、もっともっと近づきたい。
 なのに同時に、何処かでそれを怖れてもいる。

 言葉にしたことはないのに、何もかも分かっているように、
 髪に瞳に額に、そして指先に、
 ほんのひととき、そっと…触れる唇。

 幾つもの矛盾。
 変わっていく“自分”への微かな不安も、
 やさしい笑顔と、その紫紺の双眸に見つめられているだけで、
 いつのまにか全て消え去っていく。

 そうして胸の中残るのは、
 幸せな…幸せな気持ちと僅かな甘い痛み。

 今は、
 愛しさを、伝えることも受け取ることも上手くできなくて、
 困らせてしまっているのかもしれないけれど、

 いつか同じくらいに、
 あなたを、幸せにできるようになりたいから、

 繋いだ心を、
 どうかずっと、離さないで……。

fin.

2004,11,07

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