背徳の雨

   この部屋に、胸の中に、音もなくただ降り続く、
   ―― 視えない、灰色の雨。

 力尽くで引き裂いた、その背の両翼。
 ようやく見付けた希望(ひかり)を、黒く穢れた闇で粉々に砕いたあの日。

 自らの死を以ってしても贖えない罪を印す、
 鮮赤の血の痕が刻まれた幾多の羽根は、
 狂風に舞い散る花片のように、緋く白く床を染めて。

 もう自力で起き上がることさえできず、
 ソファーに横たわる細い躰。

 けれど頬に手を遣ると、微かに瞳が開き、
 君は以前(むかし)のまま、
 狂おしいほど、穏やかに優しく微笑ってくれる。

 それは、
 同情なのか、慈悲なのか、愛なのか…。

 判らないまま、それでも、
 脅かすもののない、冷たい静閑に包まれて、
 地上(すべて)が潰える瞬間まで、
 君の温もりが、傍(ここ)に有ればそれでいい。

 そして、

 君の手に触れたまま、ゆっくりと眼を閉じて、
 二度と醒めない、眠りへと堕ちていく。

 決して止むことのない、
 灰色の ――― 背徳の雨に濡れながら。

fin.

2006,02,01

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