習慣で、朝の気配にふと目が覚める。
窓の外の鳥達のさえずりが、そろそろ、朝食を作らなければいけない時間だと告げていた。
でも身体は怠くて、頭も酷くぼうっとしている。
この状態で刃物や火を使うのはちょっと危ないかも…と、ぼんやり思いながらくるみは、無意識のうちに恋人の腕枕に額を埋めた。
それに、
今朝はまだ、大好きな人の腕の中にいたい。
寄り添って、同じ鼓動を聴いていたい…。
薔薇の庭からお姫様抱っこのまま戻った部屋で、レオンは自分を抑えてまでも痛みが和らぐように気遣い、やさしくやさしく…愛してくれた。
たくさん泣かせてきた分、心も身体も、今まで以上に大事にしたいと……。
二度目からは激しさが増して、本当に夜明け近くまで何度も求められたけれど、それも決して、無理強いではなくて…。
白い蝶になる為にその先を拒み続けていた時も、昨夜肌を合わせた時も、レオンはずっと、私の意思(きもち)を大切にしてくれていた。
改めてそう感じ、初めて知った甘い悦びと、心も深く繋がっていることが嬉しくて、―― 幸せで仕方なかった。
昨日はふたりとも、食事を味わう余裕なんて全然なかったから、今日は美味しいものを作ってあげたいな。
やっぱり、起きた方がいいのかな…。
うとうとしながらも迷っていると、隣から愛しさを含んだ、噛み殺すような笑い声が聞こえた。
「いいから、まだ寝ていろ。……というかおまえ、起き上がれないだろう?」
「……うん、…ありがとう、レオン。…あの、ね……」
「ああ、何だ?」
耳打ちのようなキスが、くすぐったくて微笑む。
大きな手が、ゆっくりと繰り返し髪を撫でてくれるのが気持ちよかった。
「今日の、お昼と夕食は、…レオンが好きなもの、作るね…」
「人参とパプリカは入れるなよ」
すかさず、しかも結構本気な口調で注文をつけられて、しょうがないなぁ、とまた笑った。
「…うん。……今日は、…入れない」
「今日だけじゃない。ずっと入れるな」
「それは……ダメ…」
こんな時にまで強情だなと苦笑する、だけど何処か楽しげな吐息に、強情なのはレオンだよと、言い返そうとしたけれど、もう瞼を開けていられなくて。
おやつにクッキーを焼いて、
青薔薇の庭で、
黄色い月の下で、
のんびりお茶にするのもいいな。
これからは一緒に、
出掛けたりすることもできるよね…?
ピクニックみたいに籠一杯のお弁当を持って、
お城の外を、
手を繋いで、歩いてみたいな。
魔界のことをもっともっと、
レオンと、
識っていけたらいいな……。
そんな願いを、夢うつつに想い描きながら。
頬と唇に降り続く、朝のおやすみのキスがくれる微睡みに、くるみは素直に身を任せた。
fin.
2008,06,14
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