―― レオン。
呟いた時、
離れてしまった指先に、ほのかな熱が戻ってきたように。
呪いを解く為に、
舞い降りたその手はとても、温かくて。
「……くるみ…!」
繰り返し私を呼ぶ声は、
今も、はっきりと聴こえていて……。
月に溶けて、私は、
白い蝶になったはずなのに。
どうして、
あなたの言葉を、体温を、
まだこんなにも確かに、感じ取ることができるの…?
指先が、触れる。
再び、……絡め合うように。
深い青薔薇の瞳が、
大きな、驚きを映して。
「……くる…み…?」
息を呑み、震える声が、
赤い光の下(もと)で揺れる。
手を伸ばして。
その温もりに触れた処から、
私が、―― 生まれ変わっていく。
「……レオン…」
愛しい愛しい、名前を呼ぶ。
自分を犠牲にしても、助けたかった存在(ひと)の名を。
ねえレオン、この声が、
あなたにもちゃんと、……届いている?
ふわりと、首に両手を回す。
頬を掠めるのは、やわらかい、黎明の星を思わせる銀の髪。
温かい。幻(ゆめ)じゃ…ない。
そしてあなたを、城内を、私を守るように拡がる、
これは……、甦ったあなたの魔力(ちから)。
「……くるみ……っ!!」
背中を、強く強く、抱きしめてくれる腕。
幾度も幾度も、
飽くことなく、私の名前を口にして。
―― そう、私は…ここにいるよ。
あなたが私を、心から愛してくれたから。
私はあなただけのものだと、
赤く染まる月に、抗い続けてくれたから……。
「……もう絶対に、……離さない…」
うん。
あなたの傍をもう、離れたりしないよ。
「愛してる」
互いに囁く一言が、最後の呪文になったみたいに。
つま先まで新しい、私になって。
顔を見たくてゆっくり手をほどくと、
風に羽が煽られる、羽化したばかりの蝶のように、
ふっと身体が浮き上がった。
「…バカもの。言ったそばから離れるな…」
微苦笑と伴に頬に手が添えられて、
確かめるようにそっと、唇が重なる。
なんだか、初めてのキス、みたいだね。
そう思っていたら、レオンの顔も少し紅くなっていて。
思わず小さく微笑ったら、更にきつく抱き寄せられた。
「全くおまえは…、呑気に笑っている場合か?
この俺様に、あんな死にそうな思いをさせておいて…」
偉そうなのか素直なのか分からない、そんな物言いさえ愛おしい。
またつい笑ってしまったら、
青い瞳が不意に意地悪な ―― だけど情熱的な光を宿して。
耳元で熱い、吐息が零れた。
「覚悟しろ。
部屋に戻ったら、―― 朝までおまえを、……眠らせない…」
「……うん」
導かれるように頷くと、
透明な羽を眩しそうに見上げて、あなたも微笑ってくれたから。
甘い痛みに包まれながら、
今夜、あなたの腕の中で、
きっと私は、
もう一度…、生まれ変わる。
fin.
2008,06,13
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