rosy lips

 今し方摘んできたばかりの青薔薇を抱え、ドアをノックする。
「レオン様、萎れてしまった薔薇を替えますね」
 窓辺のソファーで読書中のレオンの邪魔をしないよう静かに声を掛け、大きな花瓶に歩み寄る。
 今朝部屋を出る前に確認しておいた枝を、一本ずつ丁寧に、新鮮なものと入れ替える。
 抜き取った花を持って振り返ろうとした時、背中に感じた気配にくるみは足を止めた。
「レオン様?」
 後ろから、右腕で両肩を引き寄せられる。
 緩やかに髪を梳く左手が長い一房を遊ぶように掬い、そこに口付けられて微かに身体が震えた。
「おまえの髪は、薔薇の香りがするな。香油でもつけているのか?」
「……レ、レオン様と一緒にお風呂に入っているから…。その香りだと思います、けど…」
 自室よりこの部屋で過ごす時間の方が多くなり、彼の求めに応じて、大浴場も毎日ふたりで使っている。
 浴室で互いの身体を洗い、ベッドで互いを悦ばせる。もう何度も濃密な夜(とき)を伴にしているのに、こうして不意にやさしく抱きしめられただけで、鼓動は早くなってしまう。
 紅潮した頬を隠す為に俯く。
 耳元をくすぐる楽しげな笑声に、ますます顔が上げられなかった。
「…そうか? なら俺も、同じ匂いがすると思うが…」
 やや強引に華奢な肩を振り向かせると、悪戯めいた瞳のまま、レオンは軽く屈んでみせる。
 単に構ってほしいのだと気が付いて、いつものことながら子供っぽい感情表現に呆れるより、そんな可愛い我が侭への愛しさが込み上げてくる。
 くるみはほんの少し背伸びをすると、まだくすくすと笑っている唇に、自分のそれをそっと重ね合わせた。
「……ん、…今日も一緒に、入るぞ…」
「…はい……」
 素直に頷くと、レオンからのキスはすぐに深みを増して。
 知らぬ間に、手にしていた薔薇を床に落としてしまう。
 立ち上る仄かな馨香は、空気にさえ、秘めやかな熱を伝えていくようで。
 足元が覚束なくなるほどの甘い眩暈に、広い胸へと寄り掛かり、くるみはその背に腕を絡めた。

fin.

2009,01,01

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