絵本を読み聞かせるレオンの声はいつも、蜂蜜を入れたホットミルクみたいに温かで。
くるみは幼い頃に戻った気持ちで、その物語にじっと耳を傾けていた。
青薔薇姫が無事に窮地を脱したことに、安堵の胸を撫で下ろす。
ゆっくりと本を脇に置くと、逞しい腕が、瞳を覗き込みながら肩を抱いてくれた。
「面白かったか?」
「うん!」
「おまえに、後編(これ)を読んでやれて良かった…。
―― そういえば、魔力が戻ったら、まずしてやることがあったな」
「え…?」
右手をそっと、彼の口元に引き寄せられる。
舌がやさしく、人差し指を舐めていく。
伝わる確かな治癒の力で、そこにあった傷は跡形もなく消えていった。
ありがとう、と絵本のことも含めて微笑う。
けれどレオンは自省の眼差しで一度首を振り、噛み付いた時の痛みごと癒すかのように、その後も繰り返し白い指先を撫でていた。
「俺もバカだな…。
あんな傷で、おまえに俺の物だという印をつけたつもりになっていたなんて…」
「でも、……嬉しかったの」
「くるみ?」
「レオンが好きって気付いてからは、これは、大好きな人が私に触れた証拠なんだって…」
元々の理由が何であったとしても。
抱かれることのできない身体に、愛する存在(ひと)が残してくれた傷(あと)なら、時折ぶり返す疼痛でさえ愛しかった。
そして今、それを治してもらえたのは、
身も心も、結ばれた証のようで ――― 。
「……本当におまえは、可愛いな…」
肩に置かれていた腕が、キスの途中で背中に回される。
もう一方の手はメイド服をはだけ、いつのまにか甘く胸を捉えていた。
「それならこれから、毎晩でも…つけてやる……。
痛みのない印を、……俺以外の男が…決して触れない処に、な…」
「……レオ…、……ん…っ…」
返事のつもりで呼びかけた名前は、重なる舌の上で蕩けて。
そのまま首筋に降りた唇の熱さに、知らず声は、淡く色を纏う吐息へと変わっていった。
一昨日の夜、最後(わかれ)を思いながら互いにつけた痕も、少し日が経てばきっと、消えてしまう。
だけどいつだって、私はあなたのものだから。
この肌にずっと…、
あなただけの、紅くやさしい、―― 所有印(しるし)を刻んで。
fin.
2008,12,07
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