薄緋に染まる羽

 焼けるような痛み。指や舌で愛される以上に甘美な快さ。身体の奥でひとつになる熱。
 ふたり同時に包まれた白い光。そこで一瞬、ふっと意識を手放して。
「…くるみ……?」
 心配げに、頬に触れる大きな手。
 目を開けると、映るのは、音もなく降りた露に濡れる薔薇(あお)。
 自分の全てがこの人の、―― 愛する人のものになったのだと、改めて実感して、その色が滲んでいく。
「……レオン、レオン…っ!」
 向かい合って座る肩に両手でしがみつき、ただ名前を呼んで、泣きじゃくる。
 ずっとずっと、希んでいた。けれど自ら選んだ未来の為に、叶わないはずだった瞬間(こと)。
「くるみ…」
 背中を繰り返し撫でる温もりが、やさしい声が、徐々に気持ちを落ち着かせてくれる。
 ゆっくりと顔を上げると、頬に残る雫を掬う唇を追い、軽くキスをして。
 静かに身体を離しかけた腕にそっと、手を添えて首を振った。
「……まだ、こうしていて…?」
「辛くないか?」
「うん。―― 幸せなの。
 レオンと出逢ってから、…ううん、今までで一番、幸せなの……」
 また潤んでしまった瞳で見つめたら、照れたような困ったような、複雑な表情(かお)で視線が逸らされる。
 そのまま強く抱きしめられて、伝わる鼓動が、先刻よりも少し早くなっているのが判った。
「……バカもの、そんな目で見るな。
 何度でもおまえが欲しくて、堪らなくなるだろう…?」
「うん」
「本当に、…眠らせられなくなるぞ?」
「…うん」
「後から嫌なんて、言わせないからな…」
「…ん……」
 問いから宣言に変わった言葉に、もう一度重なった唇を薄く開いて応える。

      もっと触れて。

      淋しさも苦しみも、
      愛しているからこそ感じていた、切なさも哀しみも、

      合わせた体温(ねつ)で、
      全て溶けてしまうくらいに。

      その腕の中で、信じさせて。

      ふたりを繋いでいる想い(もの)は、
      魔界に咲く青い薔薇のように、
      いつまでも、確かに心(ここ)に在るのだと……。

 窓から射し込む月の光は、今夜は未だ深い赤を宿し、
 背中で揺らめく蝶の羽も、まるで再び染まっていく肌を映すかのように仄かに色付いていた。

fin.

2009,02,08

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