目の前のトレーを見つめ、大きな溜息をつく。
教えてもらった手順通りにしたはずなのに、型の中のチョコレートは冷やす前と全く変わらない。
途方に暮れていると玄関のドアが開く音がし、コレットは慌ててそれをキッチンの奥に隠した。
「ん…? どうしたの?」
「………」
しかしアゼルがそんな不自然さに気付かないわけがない。
ただいまの声にお帰りなさいとぎこちなく笑っているうちに背後を覗かれ、あっさり発見されてしまった。
「チョコレートを作ってたの?」
「今日は大切な人にチョコレートを贈る日だって聞いたの。
でも、上手く固まらなくて…」
料理はだいぶ上達したつもりだが、お菓子作りは初めてだった。
何処で何を間違えたのか、見当もつかない。
コレットは泣きそうな気持ちになりながら項垂れた。
「今年はお店で買ってくれば良かったわ。ごめんなさい」
「味は悪くないけどなあ」
「え?」
予想もしない言葉に、俯いていた視線を上げる。そこには、右手の人差し指を舐めるアゼルの無邪気な笑顔があった。
「これ、ミルクに入れて、ホットチョコレートにしようよ。そしたらふたりで飲めるし」
「……ええ…!」
失敗作を一緒に楽しんで食べてくれるのは、何回目になるのかしら?
料理もお菓子も、いつも自信を持って出せるようになりたい。
だけど、こうやって助けてもらえるのはやっぱり嬉しい。
思わず唇を綻ばせたコレットは、同時に、もう一度ちゃんと教わって、次はアゼルが驚くくらい美味しいチョコレートを作ろうと心に決めた。
fin.
2013,02,23
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