Clover ~happiness is here~

 やさしく腕を引かれてエリックの膝の上に座ると、背中から抱きしめられる。
 甘やかに名前を囁いて耳を舐め、ナイトウェアをはだける長い指。
 ベッドに入る前のキスで疼き出していた身体が、どんどん熱くなっていく。
 左の肩甲骨の下をゆっくりとなぞられ、コレットは軽く息を乱しつつ顔を後ろに向けた。
「ねえエリック、そこに何かあるの?」
「え…?」
「今、触れてた処…。
 時々なぞったり、キスしてくれるでしょう」
「……見てみますか?」
 僅かな沈黙と逡巡があり、静かに体勢を変えられる。
 肩越しに鏡を振り返ると、四枚の花びらに似た痣が見えた。
 ―― 花、というよりも…。
「四つ葉…?」
「ええ、そうです」
「前はなかったと思うけど…」
「身体が温まったり興奮すると浮かんでくるので、普段は見えないんですよ」
「………」
 意味を覚り、鏡面に映る上気した肌が急に恥ずかしくなる。
 だが赤くなった頬を隠す為に俯いた後でふと、不自然さに気が付いた。
 ある条件下でのみ現れる痣。
 それはまるで、隠さなければならない、けれど確実に残さなければならない“印”のようで…。
 閉ざされた楽園だった城。これも、そんな異常な環境で守られていた出自に起因するのかもしれない。
 遠く離れた異国で暮らし始めてもなお、積極的に語られることのない秘密。
 きっと今はここまでが、明かせる内容なのだろう。
 最も自分を知る夫の判断以上に信頼できるものはない。
 コレットは在るが儘を受け入れ、そっと微笑んだ。
「エリックは四つ葉が好きなのよね?」
「はい。四つ葉はとても愛しい存在です」
「エリックにそう言ってもらえる痣があるのは私も嬉しいわ」
 再び背中を預ける。
 全てを任せて瞳を閉じると、やや強い力で抱き竦められた。
「この国では、……いえ、他の多くの国でも、四つ葉は幸運の象徴…。
 あなたは私に幸せをもたらす四つ葉です」
「エリックもよ。
 傍にいるだけで、私はこんなに幸せ…あ……」
 言い終える前に顎を引き寄せられ、繰り返される深いキス。
 重ねるたびにまた体温は上がっていくのに、一方の腕は肩に回されたまま動かない。
 次第にもどかしさが募り、堪らず小さく呟いていた。
「エリック…。……続き、して……」
「はい…」
 唇は首へと降り、指先が繊細な動きで汗ばむ肌を滑り出す。
 快感と幸福感に包まれながらコレットは、素直に艶めく声をあげた。

 三つ葉の中にひっそりと埋もれ、手にした人に幸運を運ぶ四つ葉のクローバー。
 だけどそれを見付ける必要はもうないの。
 だって溢れるほどの幸せがいつも、
 あなたがいてくれる場所(ここ)にある。

fin.

2012,09,20

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