「嬉しそうだな。どうした?」
ましろと真剣にじゃれていた手を止め、フィルがこちらを見遣る。
先程届いた手紙を膝の上に置いたコレットは、満面の笑みで声を弾ませた。
「クレア先生、赤ちゃんができたんですって!」
「それはいい報せだな」
「お祝いは何がいいかしら」
「気が早いな。生まれるのはまだ先なんだろう?」
やや早口で継いだ言葉に、微かな苦笑が返る。
ましろにも首を傾げるような仕種で見上げられ、赤くなった頬を両手で押さえた。
「そ、そうね。これからゆっくり考えればいいのよね」
恥ずかしさにそのまま軽く俯く。
丁寧に手紙を畳みながら、先月夫と伴に孤児院を訪れたクレアの朗らかな笑い声を思い出し、男の子か女の子かで贈り物も変わるわよねと、再び気の早い想像を巡らせた。
そしてコレットはふと浮かんだ問いを、隣に座る大切な人に向けた。
「ねえ、フィルは男の子と女の子、どちらが欲しい?」
「男だな。
……娘だと、生まれた時から嫁に出す心配をしそうだ…」
「―――」
ぼそりと付け足された呟きに、堪えきれず笑ってしまう。
当然すぐさま、仏頂面で睨まれた。
「笑うな」
「だ、だって…」
「まったく…」
怒られても、可愛い反応に口元が緩むのを抑えられない。
不満げな溜息と同時に引き寄せられ、不意に、それをやさしいキスで封じられる。
数回淡く重ねた後でコレットは微笑んだ。
「私は女の子も欲しいわ。
刺繍を教えたり、お母様に教わったマフィンを一緒に作ったりしたいの」
「…まあ、おまえとの子供なら、男でも女でも、俺にとって掛け替えのない存在になるだろうな」
「フィル…」
やわらかな笑顔と温かな言葉が嬉しくて、そっと寄り添う。
フィルはその肩を抱き、耳元で囁いた。
「俺達もそろそろ…、考えるか?」
「ええ」
孤児院の経営は安定し、フィルと両親の間にも少しずつ会話が増えて、日々は穏やかな幸せに満ちている。
結婚して半年以上経っても相変わらず恋人同士みたいな雰囲気でいたけれど、夫婦として考え始めてもいい頃かもしれない。
自然と先刻より深く唇を合わせて。
甘い温もりが約束してくれる未来を辿るよう、ふたりで新しい家族を囲む日を想った。
fin.
2011,10,23
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