午前中の執務を終え部屋に戻ってきたレニは、テーブルに置いた薄い水色の封筒を眺めたまま、ずっと眉を寄せている。
しばらく黙って隣に座っていたアーシェは純粋な好奇心が抑えられず、肩が触れ合う位置までそうっと距離を詰めると青い瞳を見上げた。
「レニ、それなあに?」
「さっき商人に無理矢理渡されたんだ。
宛名も差出人もない手紙は受け取れないと何度も言ったんだが…」
溜息と同時に封筒を持ち上げ、持て余し気味にくるりと裏返す。
信用している商人だからこそ、真意を計り兼ねているのだろう。
確かに不可解ではあるが、悪意は感じられない。
アーシェは懸念を払拭するよう、わざと明るく言った。
「開けてみようよ。中には名前が書いてあるかもしれないし」
「……そうだな」
険しかった眼差しが和らぎ、ゆっくりと封が開けられる。
しかし入っていた同色のカードに期待した署名はなく、文面は中央にたった一言、
「おめでとう…?」
「セイジュだ」
「えっ?」
「これはセイジュの字だ」
「そっか、双子だって分かったから、商人さんは名前がなくても預かったんだね」
きっとセイジュも、兄(レニ)は筆跡だけで気付くと確信していたに違いない。
懐かしさと気恥ずかしさ、ほんの少しの切なさが混じる横顔に、離れても変わらず在る、兄弟の繋がりが感じられた。
「でも、おめでとうって…?」
「先月正式に発表した王妃の懐妊が、そろそろ人間界にも伝わっているようだな」
「セイジュもお祝いしてくれてるんだね。
手紙もすごく嬉しいけど、できれば会いたかったな」
時折カイルにこっそり様子を見にいってもらい、元気だと聞いてはいるが、あの夜人間界で別れて以来一度も顔を合わせていない。
初恋に舞い上がる一方で、刻まれていた深い傷。殺害さえ厭わないほどの諍い。三人の間にあった、辛い事実(かこ)は消えないけれど。
叶うなら、互いに気負いなく話せる関係に戻りたい。
自分以上にそう願っているはずのレニはそれを表には出さず、妻をやさしく抱き寄せた。
「“家族”として会うには、もう少し…時間が必要なんだろう」
「じゃあレニ、この子が生まれたら、今度は私達がセイジュに手紙を出そうよ。
いつでもいいから、新しい家族に会いにきてって」
「ああ。セイジュはこの子の叔父だしな」
自然とお腹に置いた手に、大きな手が重なる。
そして、思いがけない祝福(てがみ)を再び一緒に見つめた。
セイジュ、ありがとう…
今はまだ直接伝えられない言葉を、胸の中で呟く。
穏やかな幸福感と伴に、アーシェは双子(ふたり)と初めて逢った日を愛しく想い出していた。
fin.
2014,06,22
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