Crier

 この世界で暮らし始めてから、
 嫉妬も、誰かの心が欲しいと願う気持ちも、
 辛く苦い恋(おもい)と一緒に、全部、捨ててしまったはずなのに。

 いつのまにか僕は、
 時に苛立ちすら覚えるほど、
 抗いようもなく、また君に惹かれていて。

 君が僕の腕の中で眠っている。
 やわらかく触れるキスに、そっと…甘く応えてくれる。

 そんな愛おしい一瞬(ひととき)は、

 淡く移ろう夢みたいで、
 束の間の奇跡みたいで、

 あと少し手を伸ばしたら、
 ―― 消えてしまう幻みたいで…。

 僕に向けられる眼差しが、
 昔とは違うことに気が付いていてもなお、
 あの日強引にしたキスに、怯えていた君を忘れられずに。

 臆病な僕は、
 狂おしく希みながらも、
 その先を、ずっと求められないでいる。

 儚く散る花が好きと言いながら、
 君に、“永遠の香り”を贈った。

 矛盾だらけだと、
 自分自身が一番よく、判っている。

 だけどこれから、きっと何が起こっても、
 僕が、君を守るから。

      傍にいて。
      どうか、今の僕だけを見て。

      失くした記憶(もの)をもう、
      探し出そうとしないで……。

 あやふやな永遠(やくそく)よりも。

 この瞬間、隣(ここ)に有る君のやさしい温もりを、
 確かに、感じていたいから。

fin.

2008,11,16

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