Thaw

 眼差しも温もりも、
 心さえ、
 いつだって、何処か遠くて。

 もどかしくて。
 確かにそこにあるはずなのに、
 いつのまにか、擦り抜けてしまうみたいで…。

 冷たい雨の降る道を、濡れるのも構わずに、
 ただ、あなたのことだけを想って走った。

 繰り返し視る、
 誰かに愛を告げる夢では、
 永遠を、願っていたような気がする。

 だけど、
 求めて止まないのに信じられない。そう苦しげに揺らぐ声音(こえ)に、
 私はあなたにとって、“決して手に入れられない花”じゃない。
 どうしても今…伝えたくて。

   永遠なんて判んないよ!
   それより私はセイジュに、この一瞬だけでも、
   好きって言われた方がずっと嬉しいよ!

 必死で叫んだ言葉に、
 不意に抱きしめられた愛情(おもい)が、
 激しい風よりも雨よりも強く、―― 温かく、届いたから。

 割ってしまった『永遠』の香りの代わりに、
 腕の中で、その胸の内(なか)を、
 甘くやさしい気持ちで、いっぱいにしたいの。

 唇を肌を、
 深く重ねてあなたと、ひとつに溶け合う。
 それが何より、幸せな瞬間なんだって識ったの。

 だからこれから、
 もしもまたあなたが、永遠と一瞬のあいだで迷っても。
 私が、懐かしい哀しい夢に、泣きながら目覚めても。

 私はあなたの傍にいるよ。
 不安になったら…、何度でも触れて、言葉でも、確かめて。

 寄り添って繋いだ指を、
 知らぬ間にほどいて背中を向けてしまう、
 その前に、……きっと。

fin.

2009,05,06

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