Precious

 愛していたからこそ、忘却は心底恨めしかった。

 それでも気が付けば、
 胸を占めているのはただ、深く甘い愛おしさで。

   愛情が憎しみに変わり、憎しみが愛情に変わる。
   次に愛情が憎しみに変わるのはいつだろうね。

 形は違っていたとしても、互いに口にはしなくても。
 為す術なく痛みを抱え続けていたのは、
 あいつも同じなのだろう。

 判っていて、
 このまま想いを貫くのは、間違っているのかもしれない。
 新たな苦しみを、生み出してしまうのかもしれない。

 けれど、誰かを傷つけても。
 その傷が、いつか自分に返ってきても。

 図らずも取り戻した、
 温もりはもう…、手放せないから。

「レニ? 商店街を通り過ぎちゃうよ?」
「この奥にいい場所があるんだ」

 絡めた指をほどけずに、
 向かう未来(さき)に、何が待ち受けていたとしても。

 繋いだ小さな手を、幸せな笑顔を、
 ―― 大切な宝物を、

 永遠に…守りきることができるように。

fin.

2009,07,11

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