軽くうとうととした後で目を開ける。
簡素なテーブルライトが灯る、ベッドサイドだけが仄明るい。ごくやわらかな光を含んだ夜の色は、寝室(へや)を包むように淡く溶け込んでいた。
すぐ傍にある、愛しいヒトの体温。
暗闇への怖れも忘れさせていく温もりと、身体の奥にまだ残る微熱は、ひとつの幸福な吐息になって。
静穏を微かに揺らした音を聞き取ったのか、肩を抱いていた手がそっと、頬に触れた。
「…アヴリル? ゴメン、やっぱり天井の明かりもつけておいた方がいいか?」
「いえ、大丈夫です。
暗い処も少しずつ平気になってきたみたいですし、今は、ディーンが傍にいてくれますから…」
「そっか」
安堵の笑みを浮かべつつも、ディーンはまるで全てから護るように、やや強く背中を抱き寄せてくれる。
その腕にも、激しく、それでも何処までも互いを慈しみながら求め合った至幸の名残りを感じたアヴリルは、また密かに小さな息をついた。
カポブロンコの村人は皆良い人達ばかりだが、一方で昔気質な処も少なからずある。流石にディーンも、生まれ育った村のそういった慣習は薄々察しているのか、深夜まで私用で彼女を家に引き止めることはない。
だから、というわけではないのだが、ライラベルに滞在している間は時折こうして、彼の部屋で一晩中ふたりきりで過ごしていた。
身体を重ねることなく、取り留めのない話をして、眠りに就くこともある。
大好きなヒトのことだけ見つめていられる。多忙な日々の中、そんな夜はいつのまにかふたりにとって、何よりも“頑張る力をくれるもの”になっていた。
「―― アヴリル、オレが十八になったら、一緒に暮らそう。
そしたらアヴリルは毎晩、暗くても安心して眠れるようになるよな…?」
「ディーン…」
普通に聞けば立派にプロポーズなのだが、おそらく今の彼に、そこまでの深意はないのだろう。
ただ真剣に心配して、傍にいると言ってくれる。素朴なやさしさが、ディーンらしくてとても嬉しかった。
その心が薄れることなく宿す熱さは、幾多の次元さえ超えて届く毅さでもあるのだと、
実感として、識っているから ――― 。
「……そうですね、きっと…」
「じゃあ、約束なッ!」
「はい」
幼子が交わす、無邪気な将来の誓いを思わせる破顔。けれどそこに視えた確かな未来に、アヴリルも幸せな気持ちで頷いた。
あなたの傍で、
やさしい約束(ことば)が、叶えられる未来(ひ)を想う。
どうかこの夜が、
いつもより少しだけ、ゆっくりと過ぎていきますように…。
fin.
2008,04,01
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