conversion

 それは、ただひとりの為だけに、
 最高の技術を用い、最大限のカスタマイズを施した、
 世界に一対(ひとつ)しかないARM。

 北の洞窟で襲ってきた魔獣は、ディーンの的確な攻撃で、思ったよりも短時間で倒すことができた。
 だがディーンは、それは「オレだけの力じゃない」と、両方の手に握った二挺拳銃を改めてじっと見つめた。
「なんか、このARMにさ…、宝物(ネジ)と同じ何かを感じるんだよな」
「へ? どーゆーこと…?」
 意味を計り兼ねているレベッカに応えてディーンの取り出したネジは、不思議に懐かしくて。
 何故か、自分にとても親(ちか)しいようで…。
「こいつと同じような、あったかさ。オレのこと、好きでいてくれてるような感じ。
 そういうのを、このARMから感じるんだよ」

      少しでも、
      ……ができるように…

「うーん…。
 相変わらずアンタの感覚には、ついていけない処があるわ…。
 ねぇアヴリル、ディーンの言うこと、どう思う?」
 微かに眉を寄せた表情(かお)で話を向けられて考え込む。
 レベッカがそう言いたくなる気持ちも判る。
 けれど神々の砦でディーンがこのARMを手にした時、確かに、その本来の性能(ちから)が目醒めていくのを感じていた。
 あたかもARMが自らの意思で、最初から、彼を真の所有者と定めていたように…。

      ……形も大きさも…
      …全てが…

 そして先刻から、意識の内(なか)にほんの一瞬現れては消える、
 霧のように、そこに在るのに触れられないもの。

 これは言葉? …感情?
 それとも、………記憶…?

「……それはあるかもしれません。
 わたくしにも、それがディーンにつかわれて、うれしがっているようなきがします」

      ……あなたの為だけに、

「…そう、それはまるで、ディーンのためにつくられたものであるかのように…」
「これ、アヴリルの大切なものだったんだろ?
 それをもらったんだから、大事に使わないとなッ!」
「…そういう問題なのかなぁ?」
 無邪気に笑うディーンに、レベッカは納得がいかないのか首を傾げている。
 アヴリルは心に浮かんだ問いを隠したまま、ふたりのやり取りに静かな笑みを返した。

 形も大きさも重さも、
 全てが、
 あなたの両手(て)に一番、馴染むように。

 歪んだ主従関係を壊し、滅亡の迫る星を救う、
 先導者となる旅を少しでも、
 助けることができるように。

 これはただあなたの為だけに、
 心を込めて創った、特別な二挺のARM。

 そうして生まれた“機械”にも、
 宿る“想い”があるのならば、

 伴に過ごせる旅(とき)が終わる瞬間まで、
 本当の意味では、
 あなたに告げるのことの赦されない、限りない愛しさを、
 包み込むようにやわらかな、温かさに換えて。

 やさしい温もりを初めて教えてくれた、
 その手にどうか、

 ―― 伝え続けて。

fin.

2007,10,14

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