外観は棺と大差ない、コールドスリープの機器の傍らに立ち尽くす。
考え得る全ての手筈は既に整えてある。
後はこの中で、自身の記憶を厳重に封じるだけ…。
指先が微かに震える。生よりも限りなく死に近い人工の永く冷たい眠りには、どうしても慣れることができない。
未来に往く度に突きつけられる、自らの過去(つみ)は酷く苦くて。遺跡に拒絶される感覚は、思い出すだけで身が竦む。
だけど、それでも…。
大好きなヒトに、掛け替えのない親友に、違えられることのない絆が繋ぐ仲間達に。
もう一度、何度も、少しずつ異なる次元(ファルガイア)で廻り逢う。
それは、幾度繰り返されるとも知れない贖罪の旅であるのと同時に、本来なら氷の女王が得られるはずのなかった、何より幸福な時間(とき)だから……。
頑張れ、アヴリル…
神々の砦で聞いた、僅かな戸惑いを含むやさしい言葉が、不意に胸の奥を揺らして思わず、涙が零れ落ちる。
「ディーン…」
人間とベルーニ族。祖を同じくしながら、支配する者とされる者とに分かたれた両種族の間に、聳え立つ強大な壁を壊す先導者(ヴァンガード)。
本当は、ずっと傍にいたかった。
屈託のない笑顔を、隣で見つめていたかった。
次に目覚めた時、この恋(きもち)を、伴に遭った出来事を、何ひとつ憶えていなくても。
受け止めてくれる腕の温かさに。
まっすぐな眼差しに。
偽りのない熱い魂(こころ)に。
きっとまたわたくしは、強く ―― あの、別れの辛さや切なさより何倍も何倍も強く、惹かれていくのでしょう。
「……そうですね、ディーン…。
―― 諦めない限り、ヒトはなんだってできる…」
愛しいヒトの口癖を、耳にはっきりと残っている声を、辿りながらそっと呟いて。
同胞が進む道を誤らせた、深く重い罪を償う為に。
大切な、絶対の『約束』を守る為に…。
冬を越え、温かな風のもとで開くことを夢見る花のように、今ひとり、孤独な闇に沈み、瞳(め)を閉じる。
一万二千年もの遥かな時代を超えて。
アースガルズの左腕から滑り落ちる身体を抱き止めてくれる、変わることのないその確かな温もりが、
昏く凍えた心を再び、溶かすまで ――― 。
fin.
2007,07,03
初出(暫定版) 2007,04,25
現在文字数 0文字