鳴り出したアラームを手探りで止め、ひとつ欠伸をする。
音は聞こえているのだろう。隣でディーンが時計に背を向けるように身じろぎする。
アヴリルはその髪に、ゆっくりと指を滑らせた。
「起きられますか?」
「……うー、あとちょっと…」
「じゃあ朝食を作って、三十分後に起こしにきますね」
「ん…」
了解か寝言か分からない返事に忍び笑いを浮かべ、一人そっとベッドを出る。
昨日は視察、会議、飛び込みの面会…と、夜まで忙しなかった。
ライラベルでは伴にこの部屋に帰るのが既に習慣になっているが、昨夜はお互い疲れていて、会話さえほとんどなく眠ってしまった。
それでも、一日の最初と最後に大好きなヒトの傍にいられるだけで、心は甘く満たされていく。
夕食も慌ただしかったし、今朝はディーンが好きな物を少し多めに作りましょうか。
もう一度寝顔を振り返ったアヴリルは、淡く微笑んで静かにドアを開けた。
「ディーン」
床に膝を付き、軽く肩を揺する。
「…もう三十分経ったのか?」
「はい」
「分かった…、起きる…」
薄目でそう応えるものの、なかなか実行には移せないらしい。
できれば寝かせてあげたいが、午前中はギルドの件でチャックと会う約束になっている。
なるべく気分良く、起きられるといいのだけど…。
「―――」
ふとした思い付きで、アヴリルはまだ何かもごもご言っている声を掬うように唇を合わせた。
「!」
“おはようのキス”の効果は予想以上だったのか、青い瞳が一気に開かれる。
驚き固まっている様子に、自分のしたことが急に恥ずかしくなる。
頬が染まっていくのを感じつつ、けれどそれには気付いていない振りで続けた。
「おはようございます、ディーン。
ご飯、できてますよ」
「……ああ、おはよう、アヴリル」
結局揃ってなんだか照れてしまい、ややぎこちなく挨拶(ことば)を交わす。
そのまま微妙に擦れ違っていた視線は、いつのまにかまた自然に重なって。
まるで初めて迎えた朝のようにくすぐったく幸せな気持ちで、今度はふたり一緒に微笑った。
fin.
2011,04,26
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