呼ばないで

 それは間違いなく本心で、なのに、
 希みとは一番遠い処にある、

 切なく痛みを伴う、……“願い”。

~ the ancient times ~

 何よりも温かく、やさしく心を震わす声。
 凍える眠りの中でずっと、
 あなたに、呼んでほしかった名前。

 けれど、……どうか、

 ―― 呼ばないで。

 どの時間軸(せかい)でも、ただ一度だけ、
 そう願う、瞬間がある。

 古代(かこ)へと戻る前、最後に聞くのはいつも、
 背を向けたわたくしを呼ぶあなたの声。

 そのたびに、振り返ってしまいたくなる。
 それはきっと、どれだけ繰り返したとしても、無くなることはない葛藤。

 それでも、
 何時(いつ)でも確かに胸(ここ)に在る、あなたの腕の温もりが、
 『頑張る力』をくれるから。

 そして再び、出逢えた時、

   わたくしは、アヴリル…。
   …はるかぜに、はなひらくことゆめにみて…。

   そっか、アヴリルっていうんだッ!
   ちょっと変わっているけれど、スッゲーいい名前だと思うッ!!

 ―― ディーン、

 あなたはまた、大好きなその笑顔で、
 わたくしの名前を、……呼んでくれますか…?

~ the present age ~

 あの時、走り去る君の背中が、
 呼び止めるオレの声を拒んでいたことが、

 だけど、
 振り向きたいのを必死にこらえていたことが、
 今なら、判るのに。

   わたくし…、
   出逢った時からディーンのことが大好きでした。

   そしてこれからも、あなたのことが大好きです ――― 。

 オレも君が、大好きだから。
 この声(きもち)を伝えるまで、絶対に、諦めないから……。

 いつかオレは、必ず、
 君を閉じ込めている、冷たい檻を壊してみせる。

 そうしたら、

 ―― アヴリル、

 辛い気持ちを隠す為じゃなく、
 いつだって、本当の笑顔で微笑ってくれるよな…?

fin.

2009,01,01
初出(ディンアヴ祭さま参加) 2008,03,25

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