帰る場所

 懐かしく温かい、
 なのに、
 抜け出せない沼に沈んでいくような昏い夢の内(なか)。

 偽りと判っていて、
 想い出と、そこにある安らぎに逃げ込んだ。

 大切な世界。大切な仲間たち。
 守る為に自分の腕を撃った。
 あの決断に悔いはない。

 けれど突き付けられた事実は、
 底知れぬ、絶望へと姿を変えて……。

 左腕を失くした痛みも、
 哀しみも切なさも、
 魔族に似た機械(からだ)が造り出したのなら、
 偽物の温もりにくるまれて、
 このまま眠り続けていたい。

 だけど…。

   ロディ…

 遠く微かに、それでも確かに、
 伝わってくる、みんなが呼ぶ声。

 応えたいのに、
 冷たく背を向けられた幾つもの別れを乗り越えられず、
 また歪んだ、過去(まぼろし)に囚われていく。

   ロディッ!!

 頼りなく揺らぐ心を、繋ぎ留める緑の瞳。
 よく識っている、―― これは、

「セシリア…?」

 無意識にその名を呟いた時、
 甘い毒に蝕まれた闇を砕く眩い光と、
 やさしく強い、君の言葉が悪夢を払う。

 人間ではない俺を、君は、
 “大切”だと言ってくれるの?

 俺の帰る処は、
 ずっと一緒に旅をしてきた君の、仲間たちの隣だと、
 思ってもいいの…?

   ロディは今までも、これからも、
   わたしたちの大切な仲間です。
   それはぜったいに、ぜったいですッ!

 そんな返事が聞こえた気がして目を開けたら。

 最初に、すぐ傍で眠る君を見付けて、
 口元に自然と、笑みが浮かんだ。

 俺は決して、独りじゃない。
 君がそう…教えてくれたから。

「ありがとう…。
 ただいま」

 微笑って帰ってこられたよ。
 大切な、君たちのいる場所へ。

fin.

2012,01,14

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