至福の余韻に浸り、間近にある蜂蜜色のお月様をうっとりと見つめる。
「そんな顔をされたら、誤解しちまうぞ?」
さっきまで私を悦ばせていた指が、おどけた振りで軽く額をつつく。
最近の変化は、きっと狼さんも察している。なのに答えを急かしたりしない。
そのやさしさに、一方的に甘えてしまっていたけど。
「誤解じゃないもの…」
「ティアナ?」
「狼さんが好き。男の人として、好き…」
自然に出た言葉に、琥珀の瞳が見開かれる。
次の瞬きと同時に引き寄せられ、息が苦しくなるほど強く抱きしめられた。
「……参ったな。それなりに場数は踏んでいるんだが、告白されてどうしたらいいか分からないのは初めてだ…」
動揺を表すように、声が微かに震えている。
火照りの残る胸から聴こえる早い鼓動に耳を澄ませていたら、腕を緩めた狼さんは愛おしげに髪を撫でてくれた。
「やっぱりおまえは、俺にとって特別なんだろうな」
「狼さん…」
今度は私が、照れてほんの少し赤い頬に触れる。
「私にとっての狼さんも、とても大事な、特別な人よ。
いっぱい待たせてごめんね。ありがとう。―― 愛してる…」
「……ティアナ…」
いつも後ろをついて回った、大好きなお兄さん。
苦い恋を経験した後で、忘れていた淡い初恋がこんな形で実るなんて、思ってもみなかった。
もしかしたら、一番驚いているのは私じゃなくて、昔よく抱き上げたり肩車をしてくれた、狼さんなのかもしれない。
「愛してる」
どちらからともなく呟き、合わさる唇。
恋人として初めてのキスはあっという間に深くなって、またその先が欲しくなる。
でも、二回もねだるのはなんだか恥ずかしい。
羞恥心と再び奥に灯る熱に甘く苛まれていると、大きな手が背中を滑り、腰へと回された。
「……おまえが欲しくて…堪らない…。だけど今抱いたら……歯止めが利かなくなりそうだな…」
「激しくても、……いいわ。狼さんに求めてもらえるの…、嬉しい……」
「本当に……いいのか? ……俺が調子に乗ったら…どうする?」
「ふふっ…大丈夫……。ダメな時は…ダメって、……ちゃんと言うもの…」
「…ははっ、……ん…それもおまえらしくて…いいな…」
揃ってくすくす笑いながら睦言を交わし、互いの肌を確かめ合う。
キスが気持ちいいのも、愛し愛されて抱かれる幸せも、狼さんが教えてくれた。
私はまだ大人の恋愛を知ったばかりだから、これからも…色々なことを教えてね。
この香りはずっと、私が独り占めしていいのよね…?
絶対に頷いてくれる問いを託すよう、重ねた指をしっかりと握り返した。
fin.
2011,08,07
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